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【主人公】

自分が主人公として生きているのだろうかと、考えた。その時、教えていただいたお二人の先生のお話を思い出したので紹介します。
東井義雄先生(浄土真宗の僧侶で日本の教育者)のことばに、
「川は岸に沿って流れているのではない。
川の流れに沿って岸ができるのである。」
というのがあります。
はじめから岸ができあがっていて、その中を水が流れるのではなく、水の流れが岸を作るという。
組織も最初から制度やシステムがあったのではなく、人間が思いを志や夢を形にしてきたのである。
制度やシステムが出来上がっていれば後から来るものは安心感があるだろう。だが、そこには躍動感がそがれてしまう恐れがある。
東井義雄先生の言葉に通じる話に、今から20年前行徳哲男先生の研修で、野鴨の話をしていただいた。1971年に日本BE研究所を設立、米国流の行動科学・感受性訓練と、日本の禅や哲学を融合させた「BE訓練(Basic Encounter Training)」を開発。
デンマークのジーランド湖にわたってきていた野生の鴨の話です。
行徳先生は、野生の鴨がどれぐらいの距離を飛ぶのか、お話くださいました。
アメリカのNASAが実験をしたところ、その距離は何と1万200km、時間にして1週間と7時間をかけてその距離を飛んでいることがわかったというのです。
さらに驚くのが、この間休むことも寝ることも、そして食べることをしないで飛び続けていたというのです。
そんなたくましい野生の鴨がそのジーランド湖に飛んできていました。
人の良い老人は、この鴨たちに餌付けをしていました。
はじめは、この野生の鴨達が大変な距離を飛んできたことを労うために美味しい餌を用意して与えていたのです。
鴨たちにとっても、毎日おいしい餌にありつけるという最高の環境でした。
そしてこの鴨たちはその環境に慣れてしまって、とうとう飛ぶことをやめて住み着いてしまったのです。
ところがある日、餌をやっていた老人が死んでしまい、餌が食べられなくなってしまいます。
飛ぶことをやめてしまった鴨たちは、飛ぶどころかかけることもできなくなってしまっていました。
そんな時に、近くの山の雪解け水が激流となってこの湖に流れ込んできました。
かつて驚くほどの距離を飛んでいたたくましい野生の鴨たちも今や醜く太り、飛ぶこともできないために、その激流に押し流されてしまったという話なのです。
行徳先生は、安住安泰こそは諸悪の根源だと説かれる。
IBMの初代社長トーマス・ワトソンは、この野生の鴨の話に大変な衝撃を覚えて、わずかな社員たちと作った合言葉が、「野鴨たれ」だったと教えていただいた。